書類選考で AI に任せてよいのは、応募書類を読んで、決めた項目に沿って整理する作業までです。次のことは、AI に任せません。

  • 合否を決めること
  • 点数だけで足切りすること
  • 仕事の能力に関係ない情報を判断に使うこと

応募が増える時期は、1 通ずつ書類を読むだけで担当者の時間がなくなります。AI に整理を任せれば、その時間を面接の準備や、迷う応募者の書類を読み込むことに使えます。

ただ、採用は応募者の人生に関わる判断です。守るべきルールもあります。

まず押さえる 3 つの公的なルール

書類選考のルールは、AI を使っても使わなくても同じです。ここが出発点になります。

適性と能力だけで選ぶ(厚生労働省「公正な採用選考の基本」)

厚生労働省は、採用選考の基本を次の 2 つとしています。

  1. 応募者の基本的人権を尊重すること
  2. 応募者の適性・能力に基づいた基準で選考すること

本籍・出生地、家族のこと、住宅の状況や生活環境、宗教や支持政党といった思想・信条は、仕事の適性や能力に関係がないため、把握しないよう求めています。

応募者の個人情報は、目的の範囲でだけ使う(職業安定法・個人情報保護法)

職業安定法の第 5 条の 5 は、労働者を募集する会社に対して、目的を明らかにしたうえで、業務の目的の達成に必要な範囲で応募者の個人情報を集め、保管し、使うよう定めています。自社で直接募集する中小企業も対象です。

個人情報保護法も、利用目的をできるだけ特定し、本人から書面で直接受け取るときは、あらかじめ利用目的を示すよう求めています。応募書類がこれにあたります。

AI に個人情報を入れるときは、学習に使われないかを確かめる(個人情報保護委員会)

個人情報保護委員会は 2023 年 6 月の注意喚起で、生成 AI(文章を作る AI)に個人情報を含む指示を入れる会社に対し、利用目的の範囲内かを十分に確認するよう求めました。

あわせて、本人の同意なく入れた個人データが、回答を出す以外の目的に使われると法律違反になる可能性があるとして、AI の提供会社がそのデータを学習に使わないことなどを確認するよう求めています。

応募書類には、氏名・住所・経歴といった個人情報がまとまって載っています。AI に入れる前に、使うサービスが入力内容を学習に使わない契約・設定になっているかを必ず確かめてください。

AI に任せてよいところ

任せてよいのは、人が判断するための材料をそろえる作業です。

書類選考で、AI に任せるのは書類の整理、質問の案、連絡文の下書き。合否の判断と点数での足切りは人が決める、と左右に分けた図。
書類選考で AI に任せること、人が決めること

1. 応募書類を、決めた項目で整理する

履歴書や職務経歴書は、応募者ごとに書き方がばらばらです。これを AI に読ませて、同じ項目の表にそろえさせます。比べやすさが違います。

次の職務経歴書を読み、下の項目で整理してください。

項目:
- これまでの職種と、それぞれの期間
- 担当した業務の内容(箇条書きで 3⁠〜⁠5 行)
- 今回の求人の「必須条件」に関係する経験(あれば、書類の該当箇所を引用)
- 今回の求人の「歓迎条件」に関係する経験(同上)
- 書類から読み取れず、面接で確認したほうがよいこと

守ってほしいこと:
- 書類に書かれていないことは推測しない
- 評価や合否の意見は書かない
- 年齢・性別・家族・出身地・国籍に関することは、書類に書かれていても項目に含めない

今回の求人の条件:
(ここに求人票の必須条件・歓迎条件を貼る)

(ここに職務経歴書を貼る)

「評価や合否の意見は書かない」と「能力に関係ない事項を項目に含めない」の 2 行が、この指示文の要です。AI の出力に判断材料として不適切な情報が混ざると、読んだ人がそれに引っぱられるおそれがあるからです。

2. 面接で聞く質問の案を作る

整理した表の「面接で確認したほうがよいこと」をもとに、質問の案を作らせます。

経歴の空白期間や、仕事内容があいまいな部分を、どう聞けば応募者が答えやすいかを考えさせるのは、AI が得意な作業です。

質問案ができたら、厚生労働省が把握しないよう求めている事項(家族、出身地、思想・信条など)に触れる質問が混ざっていないかを、人が確かめます。

3. 不採用の連絡文の下書きを作る

選考結果の連絡も、下書きなら AI に任せられます。ただし、送る前に人が読み、応募者ごとの事情に合っているかを確かめます。

AI に任せてはいけないところ

合否を決めさせる・点数で足切りする

「この応募者を採用すべきか」と AI に聞くのは、やめましょう。点数で一定以下を自動的に落とすのも同じです。

まず、AI が過去のデータや指示文の書き方に含まれる偏り(バイアス)を、そのまま判断に持ち込むおそれがあることです。

厚生労働省の雇用政策研究会も、採用での AI 活用について、偏りのあるデータを使うと差別を助長する可能性があり、活用方法は慎重に検討する必要があると指摘しています。

次に、不合格の理由を説明できなくなります。

総務省と経済産業省がまとめた「AI 事業者ガイドライン」(2026 年 3 月公表の第 1.2 版)は、AI を使う会社に対し、AI の出力を特定の個人の評価の参考にする場合は、人間が合理的に判断し、説明責任を果たすよう求めています。

仕事の能力に関係ない情報を入れる・使わせる

応募書類に家族構成や出身地が書かれていても、AI に整理させる段階で項目から外します。

職業安定法の指針は、人種・民族・社会的身分・門地・本籍・出生地など社会的差別の原因となるおそれのある事項、思想・信条、労働組合への加入状況について、原則として集めてはならないとしています。

書類に書かれていれば、AI はそれを要約に残してしまうことがあります。入れない。残さない。指示文と人のチェックの両方で徹底します。

学習に使われる設定のまま、応募書類を入れる

無料プランや個人向けプランには、設定しだいで入力した内容が AI の改善(学習)に使われるものがあります。

応募書類を入れるなら、会社として契約した法人向けプランで、入力内容が学習に使われないことを確認したうえで使います。確認できなければ、入れません。

迷いやすいところ

「書類の内容を要約させ、求人の条件に合う順に並べさせる」使い方は、整理と判断の境目にあります。並べ替えは、事実上の足切りになりやすいからです。

AI が応募書類を並べても、その順位で合否を決めず、全員の書類を人が一度は見てから、人が合否を決める、という運用の流れを示した図。
並べ替えは使っても、順位で合否を決めない

使うなら、並べた順位で合否を決めず、全員の書類を人が一度は見る、という運用にします。

AI の並び順と人の判断が大きく違った応募者がいれば、その理由を確かめると、指示文に偏りが入っていないかの点検にもなります。

なお、海外の拠点で採用する会社は、その国の規制も確かめてください。たとえば EU の AI 法は、応募書類の分析・選別や候補者の評価に使う AI を「高リスク」に分類しています。

始める前のチェックリスト

  • 使う AI サービスが、入力内容を学習に使わない契約・設定になっている
  • 応募者に示している個人情報の利用目的に、選考のための書類整理が含まれている
  • 指示文に「評価や合否の意見を書かない」「能力に関係ない事項を含めない」を入れた
  • 合否は人が決め、全員の書類を人が一度は見る運用にした
  • 面接の質問案に、把握すべきでない事項に触れる質問がないかを人が確かめる
  • 判断に迷う点(利用目的の書き方、外部サービスの扱い)を、社会保険労務士や弁護士に確認した

まずは、次の募集で届いた書類のうち数通を、上の指示文で整理させてみてください。

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