京都銀行は 2025 年 2 月、支店から本部への問い合わせに、社内の規程やマニュアルをもとに生成 AI が答えを作る仕組みを、全部店で使い始めました。対象は約 1,000 の規程・マニュアルで、最終的に年間 8,000 時間分の業務量を減らす予定としています(出典:京都銀行 ニュースリリース 2025 年 2 月 21 日)。

同じ月、愛知県の碧海信用金庫も、毎日約 4,000 件ある金庫内の問い合わせに答える生成 AI を導入しています(出典:碧海信用金庫・NTT データ ニュースリリース 2025 年 2 月 12 日)。

銀行の話ですが、悩みの形はどの会社にもあります。「この手続き、どうするんだっけ?」という質問が、詳しい人のところに集まって、その人の手が止まる。 社員 20 人の会社なら、聞かれるのは総務や経理の担当者、あるいは社長です。

会社の課題:「よくある質問」を書き続けるやり方に限界が来ていた

京都銀行は、2021 年 6 月から行内向けのチャットボットを使っていました。本部が「よくある質問と答え」を登録しておき、AI がその中から答えを探して示す方式です。その結果、問い合わせの約 30⁠〜⁠40% を自動化できたといいます(出典:PKSHA Technology「京都銀行、『PKSHA Chatbot』上で生成AIを活用したドキュメント検索機能を活用」2025 年 2 月 21 日)。

一方で、限界も見えていました。チャットボットの窓口には 1 日平均 400 件程度の照会があり、登録のない質問には答えられません。同じリリースは、課題を次のように説明しています。

  • 「よくある質問」を登録すること自体が、本部の業務の負担になっていた
  • 登録がない質問には自動で答えられず、人が対応し続けていた
  • めったに来ない質問は登録の優先度が下がり、いつまでも答えられなかった
  • 登録が増えるほど、内容を最新に保つ手間も増えた

質問と答えを人が先回りして書く方式は、3⁠〜⁠4 割までは届いても、残りの細かな質問が埋まりません。 登録を増やすほど、書き直す手間も増えていきます。

何をしたか:答えの元を「人が書いた Q&A」から「規程そのもの」に変えた

京都銀行:約 1,000 の規程・マニュアルを AI に読ませた

京都銀行が加えたのは、行内の規程やマニュアルを AI に参照させ、質問への答えをその場で作らせる仕組みです。それまでの「よくある質問」の方式は残し、その外側の質問を規程から拾えるようにしました(出典:京都銀行 ニュースリリース)。

対象は、問い合わせの多い業務から選んでいます。最初は、預かり資産の業務と、人事・総務・システムなどの行内手続きに関する約 1,000 の規程・マニュアルで、範囲は今後広げるとしています(出典:同リリース)。

本番の前には数か月の検証をしています。検証では、規程から正しい箇所を探し当てる精度が 86% に達し、行員の 9 割が導入を希望しました(出典:PKSHA Technology のリリース)。

あわせて、生成 AI を使うためのガイドラインも定めています。お客さまの情報や機密情報は、法令と社内の規定を守って厳格に扱うとしています(出典:京都銀行 ニュースリリース)。

碧海信用金庫:答えに根拠の文書を添え、いつもの端末から使えるようにした

碧海信用金庫では、それまで支店の職員がわからないことがあると、本部の担当部署に電話で聞くか、金庫内に散らばった文書を自分で探して答えを得ていました。導入した仕組みでは、専用の画面に知りたいことを入れるだけで、AI が答えを作ります(出典:碧海信用金庫・NTT データ ニュースリリース)。

工夫は 2 つあります。

  1. 答えに、根拠となる文書の内容を並べて表示する。質問した人がその場で正しさを確かめられるので、AI がもっともらしい誤りを答えても気づけます
  2. 全職員が、普段使っている業務用の端末から直接使えるようにする。インターネットから切り離された社内のネットワークから、安全につなぐ形を取りました

同じ画面で、問い合わせだけでなく文章の作成や調べものにも生成 AI を使えるようにしています(出典:同リリース)。

NTT データの解説によると、碧海信用金庫は ChatGPT が登場した直後の 2023 年夏から生成 AI の可能性を探っていました。試験運用を省き、最初から普段の業務に組み込む形で本番導入した点も特徴に挙げられています(出典:NTT データ「金融業界の生成AI活用事例」2026 年 1 月 27 日)。

答えの元を、人が書いて登録する Q&A 集から、規程やマニュアルそのものに変えた。AI が規程から回答を作り、根拠の文書を添えて職員に返す仕組みを比べた図。
答えの元を、Q&A 集から規程そのものへ
答えの元を「人が書いた Q&A」から「規程やマニュアルそのもの」に変え、答えには必ず根拠を添える。2 つの事例に共通する骨組みは、この 2 点です。

結果:公表された数字の多くは「見込み」。読み方に注意する

公表された数字を、実績と見込みに分けて並べます。

数字

中身

実績か見込みか

約 30〜40%

京都銀行で、「よくある質問」方式のチャットボットが自動化できた問い合わせの割合

実績(2021 年 6 月の導入以降)

86%

京都銀行の検証で、規程から正しい箇所を探し当てた精度

検証の結果

9 割

京都銀行の検証で、導入を希望した行員の割合

検証の結果

年間 8,000 時間

京都銀行が、行内全体で減らす予定の業務量

自社の検証にもとづく試算

年間 85,000 時間

碧海信用金庫で、問い合わせが減ることで期待される効果

期待値

出典はそれぞれ、PKSHA Technology のリリース、京都銀行 ニュースリリース、NTT データの解説です。

削減時間の数字は、どちらも導入時点の見込みです。 自社で試すときは、導入前に「1 日に何件聞かれ、1 件に何分かかっているか」を測っておくと、後で効果を比べられます。

京都銀行は、時間のほかにも効果を見込んでいます。本部が「よくある質問」を作って直す手間が減ることと、支店の行員が規程を探す時間が短くなることです(出典:PKSHA Technology のリリース)。

課題:読ませる資料の範囲と、資料そのものの古さ

どちらの事例も、最初から全部の資料を読ませてはいません。京都銀行は問い合わせの多い業務の規程から始め、範囲を少しずつ広げるとしています(出典:京都銀行 ニュースリリース)。

この方式では、AI の答えの質は読ませた資料の質で決まります。規程が古いままなら、AI は古い手順を自信ありげに答えます。 「よくある質問」を書き直す手間は減っても、元の規程を最新に保つ仕事は残ります。

もう一つは、社外秘の資料を AI に渡すことの扱いです。京都銀行はガイドラインを定め、碧海信用金庫は社内のネットワークから安全につなぐ環境を整えてから始めています。

資料を読ませる前に、どの資料なら渡してよいかを会社として決めておく。 小さな会社でも、この順番は変わりません。

中小企業が真似できること

銀行と同じ規模の仕組みは要りません。真似したいのは、次の 3 つの考え方です。

  • 答えの元を、すでにある資料にする。就業規則、経費精算のルール、受注から請求までの手順書など、社内にある文書をそのまま読ませます。Q&A を新しく書き起こす手間がかかりません
  • 答えには、どの資料のどこに書いてあるかを必ず添えさせる。確かめる手間が数十秒で済み、誤りにも気づけます
  • 問い合わせの多い分野から始める。最初から全部の資料を集めようとすると、資料探しで止まります

社員 20⁠〜⁠50 人の会社でも、総務や経理の担当者に同じ質問が何度も届いているはずです。聞かれる回数の多い 1 分野に絞れば、1 か月で試せます。

社員 20⁠〜⁠50 人の会社なら、こう始める

  1. 1 週間、社内で聞かれた質問をメモする。総務・経理の担当者や社長に、「誰に・何を聞かれたか」を 1 行ずつ書いてもらいます。多い順に並べると、最初に手をつける分野が決まります
  2. その分野の資料を 3⁠〜⁠5 本集め、最新か確かめる。古い手順や、今は使っていない様式が混じっていたら、先に直します
  3. 入力した内容を学習に使わない法人向けのプランで、資料を AI に渡す。指示文には「渡した資料に書かれた範囲だけで答え、書かれていなければ『資料にありません』と答える」「答えには資料名と該当箇所を添える」と入れます
  4. 担当者が 2 週間、自分で質問して答えを確かめる。答えが資料とずれた質問を記録し、資料の書き方を直します
  5. 社員に開放し、担当者への問い合わせ件数を比べる。1 週目にメモした件数と比べれば、効果が数字で見えます
最初の 1 か月でやることは、「聞かれた質問を数える」「資料を最新にする」「根拠つきで答えさせる」の 3 つです。

人事評価や給与のように、見られる人を限るべき資料は、最初の対象から外してください。誰がどの答えを見られるかは、資料を渡す前に決めておきます。

出典

FREE CONSULTATION社内の「これ、どうするんだっけ?」に AI が答える仕組みを作りたい方へ30 分の無料相談で、御社でよく聞かれる質問と、AI に読ませる資料の選び方を一緒に整理します。30 分・オンライン・費用 0 円無料で相談する