2024 年 5 月から 6 月にかけて、熊本市南区のスーパーストアダイノブ城南店で、店内のデジタル看板(サイネージ)に流す広告を生成 AI で作る実証が行われました。外注すると 1 週間ほどかかっていた広告づくりが、画像や動画を含めて最短 1 時間以内になりました。広告を出した商品の売上は、表示した期間に平均 1.2 倍、最大 3.3 倍になっています(出典:インテージ ニュースリリース 2024 年 6 月 28 日)。

実証に参加したのは、NTT ドコモ、インテージ、ダイノブを運営する台信商店、今村商事の 4 社です。大手が加わった実証ですが、舞台は 1 店舗の地域スーパーでした。

人手が足りず、売り場づくりまで手が回らない。 これは小売に限らず、多くの小さな会社が抱える悩みです。この実証は、その悩みに生成 AI がどこまで効くかを、売上の数字で確かめています。

会社の課題:人手不足で、売り場づくりまで手が回らない

リリースは、実証の背景を次のように書いています。小売業では人手不足が深刻で、広告づくりのような売り場づくりまで手が回らない状況が続いている。そこで、看板に流す広告を誰でも簡単に作って流せる仕組みを試した、という流れです(出典:インテージ ニュースリリース)。

売り場の広告は、作れば売上につながるとわかっていても後回しになりがちです。外注すれば 1 週間かかり、自分たちで作る時間もない。 その結果、同じ広告が長く貼られたままになります。

何をしたか:作る、流す、売上を測るを 4 社で分けた

役割の分担

4 社の役割は次の通りです(出典:同リリース)。

会社

役割

NTT ドコモ

生成 AI を使った広告の作成と、作業の自動化の検証

インテージ

看板の端末と、広告を流す仕組みの提供

ダイノブ(台信商店)

看板を置く場所の提供

今村商事

誰がいつ何を買ったかの販売データの分析

どの商品の広告を作るかは、ダイノブが「売りたい」と希望した商品から選んでいます。店内 3 か所の看板に広告を流し、売上の変化を販売データで確かめました(出典:同リリース)。

売りたい商品を決めるのは店、作るのは AI、効果を確かめるのは販売データ。 この分け方が、実証の骨組みです。

7 日ごとに、広告の 3 分の 2 を差し替えた

広告の文章、画像、動画は、ChatGPT をはじめとする一般的な生成 AI で作りました。1 サイクルを 7 日とし、そのたびに全体の 3 分の 2 を新しい広告に差し替えています(出典:同リリース)。

生成 AI を使ったことで、作る手順のうち最大で 3 分の 2 を半ば自動にできました。差し替えの頻度を上げられたのは、1 本あたりの作る時間が短くなったからです。

あわせて、一般の小売店が自分たちで広告を更新するときに何が壁になるかも洗い出しています(出典:同リリース)。

結果:作る時間は最短 1 時間以内、売上は平均 1.2 倍

公表された結果は 2 つです(出典:インテージ ニュースリリース)。

  • 作る時間:外注で 1 週間ほどかかっていた広告づくりが、画像・動画を含めて最短 1 時間以内になった
  • 売上:広告を出した商品の売上が、表示した期間(1 商品あたり 7 日間)に平均 1.2 倍、最大 3.3 倍になった

数字の読み方には注意が要ります。 1 時間以内は「最短」の値で、リリースには一部の動画広告について作る手順の 3 分の 2 を自動にした結果だと書かれています。すべての広告が 1 時間で作れたわけではありません。

売上の 1.2 倍は、同じ商品の広告を出した期間と出していない期間を比べた値です。1 店舗、約 2 か月の実証なので、季節や特売の影響がどれだけ含まれるかは、リリースからはわかりません。

店が売りたい商品を決め、生成 AI が広告を作り、店内の看板に流し、販売データで効果を確かめる。7 日ごとに差し替え、売上は平均 1.2 倍になった流れの図。
決めるのは店、作るのは AI、確かめるのはデータ
広告を作る時間が縮んだことで、7 日ごとに差し替えられるようになった。売上の伸びは、その「頻繁に変える」運用とセットで出た結果です。

課題:作ったのは店ではなく、AI に詳しい会社だった

この実証で広告を作ったのは、店のスタッフではなくドコモです。店が自分たちで同じ速さで作れるかは、まだ確かめられていません。 リリースが、一般の小売店が自分たちで更新するための課題の洗い出しを目的に入れているのも、そのためです(出典:インテージ ニュースリリース)。

4 社は 2024 年 10 月から第 2 期として、広告の品質を上げることや、さらなる自動化に取り組む予定としていました(出典:同リリース)。第 2 期の結果は、確認できた範囲では公表されていません。

見た目の好みが分かれる点にも気をつけたいところです。2026 年 7 月には、あるスーパーの青果売り場に並んだ生成 AI 製のポップに、SNS で「ごちゃついている」といった反応が集まりました(出典:ITmedia NEWS 2026 年 7 月 24 日)。作る速さが上がっても、店の雰囲気に合うかを人が見る仕事は残ります。

中小企業が真似できること

デジタル看板がなくても、真似できることは多くあります。紙のポップ、チラシ、自社サイトの新着欄、SNS の投稿も、同じ考え方で回せます。

  • 売りたい商品は人が決める。AI に任せるのは、決めた商品の広告を作るところからです
  • 作る時間が縮んだ分、差し替える回数を増やす。1 本を作り込むより、7 日ごとに入れ替えるほうが、どの言葉が効いたかを比べられます
  • 効果は販売データで確かめる。広告を出した期間と出していない期間の売上を比べれば、手応えを数字で話せます

速く作れることより、頻繁に変えて効いたものを残せることのほうが、小さな会社には効きます。

社員 20⁠〜⁠50 人の会社なら、こう始める

  1. 売りたい商品を 3 つ決める。利益率が高い、在庫を減らしたい、新しく入れたなど、理由を 1 行で書いておきます
  2. 生成 AI に、1 商品あたり 3 案の文面を作らせる。「この商品を、近所の家族連れに向けて、20 字以内のひと言と 60 字以内の説明で紹介してください」のように、誰に向けて何字で書くかを決めて頼みます。画像も作らせる場合は、店の雰囲気に合うかを人が見ます
  3. 価格・産地・量・期限などの表示は、人が元の資料と見比べる。AI は、もっともらしい数字や言葉を書き足すことがあります
  4. 7 日ごとに入れ替え、売上を記録する。出す前の 2 週間と、出した 1 週間の同じ曜日の売上を、表計算ソフトで並べるだけで十分です
  5. 1 か月たったら、効いた言い回しを残す。売上が伸びた文面を「型」として保存し、次の商品に使い回します

最初から全商品に広げる必要はありません。3 商品で 1 か月回せば、自社で続けられる手間かどうかが見えてきます。

出典

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