社員 20 人ほどの会社が AI を使い始めるなら、最初の 1 か月は 3⁠〜⁠5 人で、2⁠〜⁠3 種類の決まった仕事にだけ使います。

全員にアカウントを配って「自由に使ってみて」と声をかけると、多くの社員は何に使えばよいかわからないまま、数回試して使わなくなります。小さく始めて、うまくいった使い方を社内に見せるほうが、結局は早く全社に広がります。

この記事では、その 1 か月を 4 週に分けて、各週でやることを順に書きます。社内ルールの雛形と、最初に配る指示文の例も載せるので、来週の月曜日から始められます。

1 週目:使う目的と社内ルールを決める

最初の週は、ツールを触りません。決めるのは、何のために使うのかと、入れてはいけない情報は何かの 2 つです。

AI を使い始める最初の 1 か月を 4 週に分けた図。1 週目にルールを決め、2 週目に少人数で試し、3 週目に共有し、4 週目に続けるかを判断する。
最初の 1 か月を 4 週に分けて進める

目的は、社員が毎日感じている手間から選びます。たとえば「取引先へのメールの下書きに毎日 1 時間かかっている」「会議のメモを議事録に直すのが後回しになる」といった具体的な困りごとです。

社長や部門長が 2⁠〜⁠3 人の社員に「毎週くり返していて面倒な作業は何か」を聞けば、候補はすぐに集まります。

社内ルールは 1 枚にまとめる

細かく作り込む必要はありません。次の 5 項目を A4 1 枚に書けば、1 か月の試行には十分です。

  1. 使ってよいサービス(会社が契約したものだけ、など)
  2. 入れてはいけない情報(下の例を参照)
  3. AI の出力をそのまま社外に出さない(必ず人が読んで直す)
  4. 困ったとき・判断に迷ったときの相談先(担当者の名前)
  5. ルールを見直す日(1 か月後など)

入れてはいけない情報の線は、会社ごとに違います。迷ったら入れない。慣れてから広げれば足ります。

  • 顧客や取引先の個人情報(氏名と連絡先の組み合わせ、住所など)
  • 社員の人事情報(評価、給与、健康に関すること)
  • 取引先と秘密保持契約を結んでいる情報
  • パスワード、口座番号、カード番号

もう一つ確認しておきたいのが、使う AI サービスが、入力した内容を AI の学習に使うかどうかです。無料プランや個人向けプランと、法人向けプランとで扱いが違うサービスがあります。

契約前に各社の公式ページで確かめ、社内ルールの 1 番に「どのサービスの、どのプランを使うか」まで書いておきます。

サービスごとの違いは、別の記事「ChatGPT・Claude・Gemini を、業務で選ぶときの判断基準」で整理しています。

社内ルールは、社員が安心して使うための線引きです。何を入れてよいかが書いてあれば、社員は迷わずに試せます。

2 週目:3⁠〜⁠5 人で、2⁠〜⁠3 種類の仕事に使ってみる

2 週目から、実際に使います。人選が肝心です。参加する人は、新しいことを試すのが苦にならない人と、その業務をいちばんよく知っている人を組み合わせて選びます。

若手だけ、詳しい人だけに偏らせないほうが、後で社内に広げるときの説得力が出ます。

試す仕事は、次の 3 つの条件で選びます。

  • 毎週くり返している
  • できあがりの良し悪しを、その場で人が判断できる
  • 失敗しても社外に影響が出ない段階がある(下書きなど)

社員 20 人規模の会社で選ばれやすいのは、メールや文書の下書き、会議メモの整理、長い資料の要約、社内向けの案内文づくりです。

どれも「AI が下書きを作り、人が仕上げる」形にできるので、出力が多少ずれていても、仕上げる人が直せば社外に迷惑はかかりません。

最初に配る指示文の例

参加者には、最初の数日に使う指示文を配っておきます。白紙の入力欄を前にすると、人は手が止まります。

指示文(プロンプトとも呼びます)は、AI への頼み方を書いた文章のことです。

まずはメールの下書きです。

取引先への返信メールの下書きを作ってください。

状況:先週お見積りを出した件で、先方から納期を 1 週間早められないかと相談がありました。
こちらの回答:早めることは難しいが、半分の数量なら希望の日に納品できる。
相手:取引先の購買担当の方。何度もやりとりしている相手です。
長さ:5⁠〜⁠8 行。丁寧だが、かたすぎない文面で。

次は会議メモです。

次の会議メモを、社内向けの議事録に整えてください。

形式:
1. 決まったこと
2. 誰が・いつまでに・何をするか(表にする)
3. 次回までに持ち越したこと

メモに書かれていないことは足さないでください。担当者や期限がメモからわからない場合は「未定」と書いてください。

(ここに会議メモを貼る)

どちらの例も、状況・してほしいこと・出力の形を分けて書いています。書くのはこの 3 つだけです。それでも、出てくる文章はかなり変わります。

2 つ目の例の「書かれていないことは足さない」という一文は、AI がもっともらしい内容を補ってしまうのを防ぐためのものです。

3 週目:うまくいった使い方を集めて、社内で見せる

3 週目は、参加者がそれぞれ試した結果を、週に 1 回、30 分ほどの場に持ち寄ってもらい、次の 3 つを順に話してもらいます。

  1. 何に使って、どのくらい手間が減ったか(実感でよい)
  2. うまくいった指示文
  3. うまくいかなかったこと、AI が間違えたこと

3 つ目は必ず聞きます。AI は、事実と違うことをもっともらしく書くことがあり、これを「ハルシネーション」と呼びます。

社内の誰かが実際に引っかかった例を共有しておくと、「AI の出力は必ず人が確かめる」というルールが、紙のルールより強く伝わります。

うまくいった指示文は、共有のフォルダやチャットに「指示文集」として貯めていきます。業務名・指示文・使うときの注意を 1 行ずつ書いた表で十分です。

この表が、4 週目以降に参加者を広げるときの教材になります。

業務

指示文

使うときの注意

取引先へのメール

上の「メールの下書き」の例

金額と納期は必ず元の資料と見比べる

議事録

上の「会議メモ」の例

発言者の名前は AI に入れる前に役職に置き換える

2 週目の終わりに、使う回数が落ちる

1 か月の試行でいちばん止まりやすいのは、2 週目の終わりです。最初の数日は物珍しさで使いますが、本業が忙しくなると、慣れたやり方に戻ります。責める話ではありません。

AI を使う回数は 2 週目の終わりに落ちやすい。何もしないと下がり続けるが、使う場面を予定に組み込むと回数が保たれることを 2 本の線で比べた図。
使う場面を予定に組み込めば、回数が落ちない

対策は一つ。使う場面を予定に組み込みます。たとえば次のように、仕事の流れの中に AI を使う一手を決めてしまうと、忙しい週でも使う回数が残ります。

  • 毎週月曜の朝、先週の会議メモを AI で議事録にする
  • 見積りを出した日の返信メールは、まず AI に下書きさせる

参加者に「今週何回使ったか」を毎週聞くのも効きます。

4 週目:続けるか、広げるかを決める

1 か月たったら、判断です。判断の材料は、3 週目に集めた話と、参加者への簡単なアンケートです。

問いは 4 つで足ります。

  • この 1 か月で、AI を週に何回くらい使ったか
  • いちばん役に立った使い方は何か
  • 使わなかった・使えなかった理由があれば何か
  • 同じ部署で、ほかに使えそうな人や仕事はあるか

判断の目安は次のとおりです。

結果

次にすること

週に数回以上使われていて、具体的に役立った使い方が挙がっている

参加者を部署単位で広げる

使われていない

試す仕事の選び方に戻る

使われていない場合、原因はツールより仕事の選び方にあることが多いからです。

社内ルールも見直します。1 か月使ってみると「この情報は入れても問題なかった」「この使い方は禁止しておくべきだった」といった具体的な修正点が出てきます。

1 か月を始める前のチェックリスト

最後に、始める前に決めておくことをまとめます。

  • 試す仕事を 2⁠〜⁠3 種類に絞った
  • 参加する 3⁠〜⁠5 人を決め、本人に目的を伝えた
  • 社内ルールを 1 枚にまとめ、入れてはいけない情報を書いた
  • 使うサービスとプランを決め、入力内容の扱いを公式ページで確かめた
  • 最初に配る指示文を 2⁠〜⁠3 個用意した
  • 3 週目の共有の場と、4 週目の判断の日を予定に入れた

最初の 1 か月でめざすのは、社内に「この仕事はこう頼めば速くなる」という実例が 2⁠〜⁠3 個ある状態です。

全員が使いこなす必要はありません。実例さえあれば、残りの社員は自分の仕事に置き換えて試せます。

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