問い合わせの返信案を AI に作らせるときに守ることは、3 つにまとまります。

  1. 答えの材料は人が渡す
  2. 送るのは人が読んでから
  3. お客様の個人情報は、入れてよい範囲を先に決める

この 3 つを外すと、返信は速くなっても、お客様との信頼を損ねる事故が起きます。

AI は、丁寧で読みやすい文面を一瞬で作ります。そのぶん、中身が間違っていても気づきにくい。ここが問い合わせ対応で AI を使うときの、いちばんの落とし穴です。

起きやすい事故は「もっともらしい間違い」

AI に「このお客様への返信を書いて」とだけ頼むと、AI は足りない情報を推測で補って文章を完成させます。

料金、納期、返品の条件、在庫の有無。こうした会社ごとに違う事実を、それらしい内容で書いてしまうことがあるのです。

たとえば「返品はできますか」という問い合わせに、自社の返品条件を渡さずに返信案を作らせると、AI は一般的な通販の条件を想像して書くかもしれません。

文面は丁寧なので、忙しい担当者がそのまま送ってしまうと、自社の規約と違う約束をしたことになります。

もう一つ多いのが、できない約束です。お客様の不満に寄り添おうとして、「すぐに対応いたします」「無償で交換いたします」といった、担当者の判断を超える内容を書くことがあります。

AI が作るのは「文面」です。答えの中身(料金・条件・対応の可否)は、人が決めて AI に渡します。

返信案づくりの手順

1. 答えの材料を、AI に先に渡す

返信案を作らせる前に、答えの根拠になる情報を AI に渡します。社内の FAQ(よくある質問と答え)、料金表、規約の該当箇所、過去にうまくいった返信の例などです。

材料を渡したうえで、「材料に書かれていないことは書かない」と指示します。ここが要です。

お客様からの問い合わせへの返信案を作ってください。

守ってほしいこと:
- 下の「回答の材料」に書かれている内容だけを使って答える
- 材料に答えがない質問には、答えを推測せず、返信案の中に【担当者が確認:〇〇】と書く
- 料金・日付・条件を変えたり、材料にない約束(無償対応、期日の確約など)をしたりしない
- 返信案の最後に、「材料から答えた点」と「担当者の確認が必要な点」を箇条書きで分けて書く

文面の調子:丁寧だが、かたすぎない。お客様の言葉をくり返して、質問を理解していることを示す。

回答の材料:
(ここに FAQ・料金表・規約の該当箇所を貼る)

お客様からの問い合わせ:
(ここに問い合わせ本文を貼る)

最後の「材料から答えた点」と「確認が必要な点」を分けて書かせる指示が、確認の手間を減らします。担当者は、確認が必要な点だけを調べて埋めれば済みます。

FAQ や料金表を材料として AI に渡し、AI が返信案を作る。返信案は材料から答えた点と要確認の点に分かれ、人が読んでから送信する流れの図。
材料を渡し、確認が要る点を分けて書かせる

2. 問い合わせの種類で、任せる範囲を変える

すべての問い合わせを同じように扱う必要はありません。種類ごとに、AI にどこまで任せるかを決めておきます。

問い合わせの種類

AI の使い方

人の関わり方

営業時間・手続きの方法など、FAQ で答えられるもの

返信案を作らせる

読んで送る

料金・納期・在庫など、時期で変わるもの

返信案を作らせる

最新の情報を確かめてから送る

不具合・故障の相談

状況を整理させ、返信案を作らせる

対応方針を決めてから送る

苦情・強い不満

問い合わせの要点の整理まで

返信は人が書く

返金・契約の解除・法的な内容

使わない(または要点の整理だけ)

責任者が判断して返信する

苦情への返信を人が書くのは、AI の文面が悪いからではありません。お客様が求めているのは、整った文章より、この会社がきちんと向き合っているという実感です。

どう謝り、どこまで対応するかは、会社として決めることでもあります。

3. 送る前に、人が必ず読む

AI の返信案は、そのまま送らない。これは例外なしにします。チェックの観点は、この記事の最後にまとめました。

怖いのは慣れです。最初の数週間は 1 通ずつ念入りに読んでいた担当者も、AI の返信案が何十通と問題なく続くと、読むのが形だけになりがちです。

担当者が交代で、送った返信をいくつか読み返す時間を週に一度とると、確認の質を保てます。

文面を自社の言葉づかいに寄せる

AI の返信案は、そのままだと丁寧すぎたり、長すぎたりします。AI の文面によくある癖は、次のようなものです。

  • 謝罪の言葉が何度も重なる
  • 前置きが長い
  • お客様の質問への答えが、3 段落目まで出てこない

直すには、自社で実際に送った返信のうち、評判のよかったものを 3⁠〜⁠5 通、見本として渡します。お客様の名前や注文番号は消しておきます。

次の見本は、当社がこれまでお客様に送った返信です。
返信案を作るときは、見本と同じくらいの長さ・言葉づかいにしてください。
特に、次の点をまねてください。
- 最初の 2 行以内に、質問への答えを書く
- 謝罪は 1 回まで
- 1 通は 10 行以内

見本:
(ここに過去の返信を 3⁠〜⁠5 通貼る)

見本の効き目は大きいものです。「丁寧に」「簡潔に」と言葉で頼むより、実物を見せたほうが、AI は自社の調子をつかみます。

見本は、季節の案内や新しいサービスが増えたときに入れ替えます。

お客様の個人情報の扱い

問い合わせには、お客様の氏名、住所、電話番号、注文の内容が含まれます。

個人情報保護委員会は 2023 年 6 月の注意喚起で、生成 AI に個人情報を含む指示を入れる会社に対し、次のことを求めています(出典:個人情報保護委員会「生成AIサービスの利用に関する注意喚起等について」)。

  • 利用目的の範囲内かを十分に確認すること
  • AI の提供会社がそのデータを学習に使わないことなどを確かめること

実際の運用では、次の 2 つを決めておきます。

問い合わせに含まれる氏名、住所、電話番号を、AI に入れる前に「〇〇様」「(住所)」などに置き換え、返信に必要な情報だけを渡すことを示した図。
AI に入れる前に、個人情報を置き換える
  • 使う AI サービスは、会社で契約した法人向けプランなど、入力内容が学習に使われない契約・設定のものに限る
  • 返信案づくりに不要な情報(住所、電話番号、カード情報など)は、AI に入れる前に消すか「〇〇様」「(住所)」に置き換える
返信案に必要なのは、たいてい「何を聞かれているか」と「答えの材料」だけです。お客様が誰かがわからなくても、返信案は作れます。宛名や注文番号は、送る直前に人が入れれば足ります。

AI に作らせると楽になる、返信以外の作業

返信案のほかにも、問い合わせ対応で AI が役に立つ作業があります。

一つは、長い問い合わせの要点の整理です。何度もやりとりが続いた問い合わせを、引き継ぎのために「お客様の質問」「これまでの回答」「残っている課題」に分けてまとめさせると、担当が変わっても話が途切れません。

もう一つは、FAQ の更新です。1 か月分の問い合わせ(個人情報を消したもの)を渡して、「FAQ にない質問で、くり返し来ているもの」を挙げさせると、FAQ に足すべき項目が見えてきます。

FAQ が充実すれば、AI の返信案の材料も増えます。

送る前のチェックリスト

  • 【担当者が確認】の箇所が、すべて埋まっている
  • 料金・日付・条件が、いまの社内の情報と一致している
  • 会社として約束できないこと(無償対応、期日の確約など)を書いていない
  • お客様の質問すべてに答えている(答えていない質問がない)
  • 宛名・注文番号など、送る直前に入れる情報が正しい
  • 苦情・返金・契約に関わる問い合わせは、責任者が確認した

まずは、FAQ で答えられる問い合わせだけを対象に、1 週間試してみてください。

材料を渡す指示文と、このチェックリストの組み合わせで回せるかを確かめてから、料金や納期の問い合わせに広げます。

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