介護の現場では、利用者と向き合う時間と同じくらい、記録や書類に時間がとられます。茨城県つくば市の「おはなリハ ケアマネステーション」は、話した内容を AI に記録させる仕組みを入れ、記録 1 件あたりの入力時間を平均 45 分から平均 5 分に縮めました(出典:@Press「記録業務が45分から5分に」2026 年 7 月 28 日)。

同じ悩みに、自治体が動いた例もあります。高知県香美市は、面談の録音から生成 AI でケアプランの下書きを作る実証に取り組んでいます。この記事では 2 つの事例を順に見て、書類仕事の多い小さな会社が持ち帰れることを整理します。

事例 1:話しながら記録が仕上がるようにした(おはなリハ ケアマネステーション)

会社の課題:事務作業をすべてケアマネジャーが抱えていた

おはなリハ ケアマネステーションは、オハナ・リハ株式会社が運営する居宅介護支援事業所です。3 つの事業所に、ケアマネジャー 19 人がいます(出典:同リリース)。

導入前の様子は、リリースにこう書かれています。紙の書類、FAX、郵送、メールが混在し、事務作業のすべてをケアマネジャー自身が担っていました。利用者や家族と話す場面でも入力に気をとられ、対話に十分に向き合えなかったといいます(出典:同リリース)。

何をしたか:まず記録を音声に、次にパソコン作業を自動に

取り組みは 2 段階です。

  1. 話した内容を AI が記録・要約するサービス「ミルモレコーダー」を全面導入した。手で打ち込んでいた記録を、会話の音声から作るようにしました
  2. AI を使ってパソコン作業を自動にするサービス「ミルモオートメーション」を段階的に入れた。記録や議事録の作成のうち、決まった手順のパソコン作業を自動にしました

代表の巻裕子さんは、理学療法士で主任介護支援専門員です。導入後の変化を「対話に集中しながら記録が仕上がるようになり、生まれた時間を利用者様との対話やスタッフの育成にあてられるようになりました」と話しています(出典:同リリース)。

記録 1 件あたりの入力時間が、手入力の 45 分から、音声入力で 15 分、パソコン作業の自動化の後は 5 分へと、2 段階で短くなった様子を示す図。
記録 1 件の時間が、2 段階で短くなった

結果:記録は 45 分から 5 分、離職率は 30% から 0%

リリースに載っている数字を表にまとめます。数字はすべて事業所が調べたもので、2024 年 12 月と 2025 年 12 月を比べています(出典:同リリース)。

項目

導入前

導入後

記録の入力時間(1 件あたり)

平均 45 分(手入力)

音声入力で平均 15 分 → 自動化の後は平均 5 分

支援経過・議事録の作成時間(職員 1 人あたり)

月 20 時間

月 5 時間(約 75% 減)

年間の離職率

30%

0%

子育て中の職員が働き続けた割合

50%

100%

採用の応募者数

年 4〜5 人

15 人以上

1 段目の音声入力だけで、45 分が 15 分になっています。大がかりな仕組みを作る前に、「打ち込む」を「話す」に変えるだけで、時間の 3 分の 2 が減ったことになります。

離職率や応募者数の変化は、リリースでは AI の導入と並べて報告されています。ただし、ほかの取り組みの影響とどこまで切り分けたのかは書かれていません。数字は「この事業所ではこう変わった」という報告として読むのが妥当です。

事例 2:面談の録音から、ケアプランの下書きを当日中に作った(高知県香美市)

何をしたか:同席して録音し、生成 AI で下書きを作る

高知県香美市は、株式会社 CareFran と連携した実証事業「となりの辺見さんプロジェクト」に取り組んでいます。CareFran の担当者が、利用者とケアマネジャーの面談に同席して録音します。その音声を生成 AI で解析し、「利用者基本情報シート」「アセスメントシート」「予防プラン」の下書きを出力しました(出典:PR TIMES「CareFran、生成AIによる自動化でケアプラン作成時間を大幅短縮」2025 年 9 月 26 日)。

対象は、要支援の人のケアプランです。CareFran は、要支援のプランは「報酬単価が安い」「通常のプランよりも作成に時間がかかる」ため、ケアマネジャーの負担が大きいと説明しています(出典:CareFran「生成AIによる自動化でケアプラン作成時間を大幅短縮」2025 年 9 月 26 日)。

結果:翌日以降に半日かかっていた作業が、当日中に終わった

最初の検証では、13 時 30 分に 1 人目のアセスメントを始め、16 時 30 分には 2 人目まで終わり、2 人分の書類の下書きができあがりました。これまで翌日以降に半日以上かかっていた作業が、その日のうちに終わったとしています(出典:PR TIMES の同リリース)。

CareFran は、ケアプランの作成には新規の利用者で約 4 時間 30 分、継続の利用でも約 2 時間 30 分かかるという報道を引いています(出典:CareFran の同ページ)。参加したケアマネジャーは「ほぼ修正の必要はないくらい」と話し、方言での会話も実用的な水準で解析できたと報告されています(出典:同ページ)。

ただし、これは最初の検証の報告で、件数は 2 人分です。どのくらいの件数で同じ結果が出るかは、まだ公表されていません。

2 つの事例に共通するのは、書類を「書く」のをやめ、会話から「下書きを作らせる」ことです。人は、できた下書きを確かめて直す側に回っています。

課題:記録には、とくに慎重に扱う情報が多い

介護の記録には、利用者の心身の状態や家族の事情が書かれます。AI のサービスに入れる前に、その情報をどう扱うかを決めておく必要があります。

個人情報保護委員会は、事業者が個人情報を含む指示文を生成 AI のサービスに入れる場合について、注意点をまとめています。個人情報を入れるときは、もともとの利用目的に必要な範囲かを十分に確かめること。さらに、本人の同意なく個人データを入れ、それが応答を出す以外の目的で扱われると、法律に違反するおそれがある、としています(出典:個人情報保護委員会「生成AIサービスの利用に関する注意喚起等」2023 年 6 月 2 日)。

おはなリハも香美市も、介護向けに作られたサービスや、事業者が同席する実証の形で進めています。社員が個人のアカウントで一般の AI サービスに記録を貼り付けるのとは、条件が違います。

中小企業が真似できること

介護に限らず、「人と話した内容を記録に残す」仕事はどの会社にもあります。営業の商談メモ、お客様からの相談の記録、現場の点検報告、社内の会議の議事録などです。

2 つの事例から真似できるのは、次の 3 点です。

  • 書く作業を、話す作業に置き換える。おはなリハでは、これだけで記録の時間が 3 分の 1 になりました
  • AI には下書きまでを作らせ、確かめるのは人にする。香美市の実証でも、ケアマネジャーが下書きを確かめています
  • 扱う情報に合わせてサービスを選ぶ。個人の事情を含む記録なら、業務向けの契約で、入力内容の扱いが確かめられるサービスを使います

社員 20⁠〜⁠50 人の会社なら、こう始める

いきなり全員の記録を変えず、記録の多い 1 つの仕事から始めます。順番は次のとおりです。

  1. 記録に時間をとられている仕事を 1 つ選ぶ。商談メモ、相談の記録、点検報告など、毎日くり返し、形が決まっているものが向いています
  2. 今の 1 件あたりの時間を 2 週間測る。おはなリハのように前後で比べられるよう、始める前の数字を残します
  3. 会話の録音や音声メモから、AI に下書きを作らせる。会議の録音から要約を作る機能は、業務向けの AI サービスや Web 会議の道具にも入っています。録音してよいかは、相手に先に確かめます
  4. 下書きの形を決めて、AI に渡す。「日時⁠/相手⁠/話した内容⁠/決まったこと/次にやること」のように、記録の欄を決めておくと、確かめる手間が減ります
  5. 1 か月後に、1 件あたりの時間と、人が直した箇所を見る。直す箇所が多い欄は、指示文に書き足すか、人が書く欄に戻します

4 番目の記録の形は、たとえば次のような表で決めておきます。

欄

AI に任せるか

確かめること

日時・相手

任せる

名前の聞き間違い

話した内容の要約

任せる

言っていないことが足されていないか

決まったこと・次にやること

任せる

期限と担当者が正しいか

所見・判断

人が書く

―

判断や所見の欄は、最初から人が書く欄として残しておきます。AI が作るのは、話した事実の下書きまでです。

出典

FREE CONSULTATION記録や報告書づくりに追われている方へ30 分の無料相談で、御社の書類仕事のうち AI に任せられるところと、個人情報の扱い方を一緒に整理します。30 分・オンライン・費用 0 円無料で相談する