社員全員に AI を使える環境を配ったら、何が起きるのか。神奈川県横須賀市が 2023 年に行った ChatGPT の全庁実証は、その答えを数字つきで公開している数少ない例です。

結果を先にまとめます。

  • 対象の職員のおよそ半数が実際に使った
  • アンケートに答えた職員の約 8 割が「仕事の効率が上がる」「使い続けたい」と答えた
  • 一方で、使い方の約 3 割は ChatGPT に向かない「調べもの」だった

市はこの結果を受けて本格導入を決め、職員の使い方を育てる手を打っています。

課題:新しい道具を、職員が安全に試せる場がなかった

横須賀市は、2023 年 4 月 20 日から ChatGPT を全庁で試す実証を始めました(出典:横須賀市「ChatGPTの全庁的な活用実証の結果報告と今後の展開(市長記者会見)」2023 年 6 月 5 日)。

自治体は、住民の情報を扱う仕事が多い組織です。職員が個人で外部の AI サービスを使い始めれば、何を入れてよいかの判断が人によってばらつきます。

全庁で同じ環境を用意し、使われ方を把握しながら試すことが、実証の前提でした。

何をしたか:ふだんのチャットツールから使えるようにした

いつもの画面に ChatGPT を置いた

市が選んだのは、職員が日常的に使っている自治体向けのチャットツール「LoGo チャット」から ChatGPT を呼び出せるようにする方法です。

対象は LoGo チャットを使える全職員、約 3,800 人でした(出典:横須賀市 経営企画部 デジタル・ガバメント推進室「ChatGPT活用実証結果報告」2023 年 6 月 5 日)。

新しい画面を覚える必要がない。業務で毎日開くツールの中に AI があれば、試すまでの距離はぐっと縮まります。

アンケートを 2 回とり、間に「通信」を配った

実証の途中で、市は職員アンケートを 2 回行いました。1 回目は開始から 1 週間後、2 回目は約 1 か月後です。

その間に「チャットGPT通信」という職員向けの案内を 2 号配り、使い方のコツを伝えています。アンケートの設問の素案も ChatGPT に作らせ、職員が直して使ったそうです(出典:同報告書)。

結果:半数が使い、8 割が続けたいと答えた

5 月 31 日時点の数字は次のとおりです(出典:同報告書)。

項目

数字

ChatGPT とのやりとりの部屋(トークルーム)

1,913 件

職員数

3,828 人

利用率

約 50%

話しかけた回数の合計

25,897 件

最終アンケートでは、8 割以上の職員が「仕事の効率向上につながる」と答え、8 割近くが利用を続けたいと答えました(出典:同報告書)。

職員への聞き取りでは、文章の下書き、要約、言い回しの見直しで時間が短くなった例が集まりました。箇条書きのメモを文章に整える作業で、1 日 10 分、年間にすると 40 時間ほど短くなると見積もった職員もいます(出典:同報告書)。

市はこれをもとに、文書作成だけで年間およそ 22,700 時間の短縮が見込めると試算しました。計算の内訳も公開されています。次の 4 つを掛け合わせたものです(出典:同報告書)。

  • 利用者 1,913 人
  • そのうち文書作成に使う人の割合 29.3%
  • 1 日あたりの短縮 10 分
  • 年間の勤務日数 243 日
22,700 時間は、実際に測った値ではなく、アンケートと聞き取りから出した見込みです。それでも、計算の根拠を全部見せているので、自社の人数に置き換えて考える材料になります。

うまくいかなかったこと:「調べもの」に使われた

報告書は、うまくいかなかった点も同じ重さで書いています。

ChatGPT に向いているのは下書き、要約、言い換え。向かないのは調べもので、横須賀市の実証では使い方の約 3 割が調べものだったことを左右に比べた図。
下書き・要約に向き、調べものには向かない

いちばん大きいのは使い方のずれです。ChatGPT が得意ではない「調べもの(検索)」に使った人が約 3 割いました。

中間アンケートの時点では、行ったことの中で「知りたい情報の検索、調査」が最も多かったほどです。「チャットGPT通信」での呼びかけで減りはしたものの、最終アンケートでも課題として残っています。

回答がおおむね不適切だと答えた職員も 6% ほどいました(出典:横須賀市「ChatGPTの全庁的な活用実証の結果報告と今後の展開(市長記者会見)」2023 年 6 月 5 日)。

ここは効率より正確さの話です。AI は、もっともらしい間違いを書くことがあり、調べものに使えばその間違いをそのまま信じてしまいます。

最終アンケートでも 4 割強の職員が「適切でない答えがある」と感じており、市は報告書で、良い質問がまだできていない可能性を挙げて研修の必要性に結びつけました(出典:横須賀市 経営企画部 デジタル・ガバメント推進室「ChatGPT活用実証結果報告」2023 年 6 月 5 日)。

次に打った手:使い方を育てる仕組みを足した

結果を受けて、市は ChatGPT の本格導入を決めました。同時に、職員の使い方を育てるための手を並べています(出典:同記者会見資料)。

  • AI の専門家をアドバイザーに迎える
  • その監修で、職員向けの活用スキル研修を作る
  • 市役所内で、プロンプト(AI への指示文)のコンテストを開き、よい使い方を掘り起こす
  • より性能の高いモデルへの切り替えを準備する
道具を配って終わりにせず、「どう頼めばよい答えが返ってくるか」を組織で学ぶ段階に進んだわけです。

会社で試すなら、こう始める

横須賀市の実証は、社員 20 人の会社にもそのまま縮めて使える形をしています。

  1. いつも使うツールの中で試す。社内チャットやグループウェアと連携できるサービス、または会社として契約したアカウントを全員に配る
  2. 入れてはいけない情報を先に決める。顧客の個人情報、社員の人事情報、取引先との秘密情報など。契約するサービスが、入力内容を学習に使わない設定になっているかも確かめる
  3. 1 週間後と 1 か月後に短いアンケートをとる。「何に使ったか」「役に立ったか」「困ったことは何か」の 3 問で十分
  4. 使い方のコツを、社内向けに短く配る。調べものより、下書き・要約・言い換えに向いていることを、例を添えて伝える
  5. うまくいった使い方を集めて共有する。横須賀市のコンテストのように、社員の工夫を表に出す場をつくる

中でも 4 は手を抜きがちです。横須賀市でも、案内を配っただけで「調べもの」がなくなりはしませんでした。

使い方は一度伝えて終わりではなく、具体例を何度も見せて育てていくものだと考えておくと、導入後に慌てずに済みます。

もう一つ真似したいのは、結果を数字で残したことです。利用人数、使った回数、何に使ったか、続けたいか。

この 4 つを 1 か月分残しておけば、続けるか、広げるか、やめるかを感覚ではなく材料で決められます。

出典

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