対象の仕事
仕入先から届く請求書と、社員が立て替えた分の領収書を、会計ソフトに入力する仕事です。量は月に 300 枚ほど。半分はメールに添付された PDF で、残りは郵送の紙です。
経理の担当者は、PDF をメールから 1 通ずつ開き、紙は机の上で 1 枚ずつめくりながら、日付・取引先・金額・勘定科目を freee 会計の画面に打ち込んでいました。勘定科目は担当者の記憶と、過去の仕訳を検索して決めていました。
困っていたこと
月末の 3 日間は、ほぼ入力だけで終わっていました。そのあいだ支払いの確認や社内からの問い合わせは後回しになり、締めが翌月 5 日までずれ込むのが当たり前になっていました。
ミスも月に 12 件ほど出ていました。多かったのは金額の桁の打ち間違いと、似た名前の取引先の取り違えです。見つかるのはたいてい試算表を見たときで、どの請求書のどの行が原因かをさかのぼって探すのに、入力と同じくらい時間を取られていました。
やったこと
STEP 1 請求書の入口を 1 つのフォルダにする
この STEP に AI は入りません。仕入先には、請求書の送り先を経理用のメールアドレス 1 つにしてもらいました。そのアドレスに届いた添付ファイルは、プログラムが日付ごとのフォルダに自動で保存します。紙の請求書と領収書は、担当者がスマホで撮って同じフォルダに入れます。
フォルダの中身は「未処理」と「処理済み」に分けました。担当者は、未処理のフォルダだけを見れば、まだ入力していない書類がわかります。
STEP 2 ChatGPT が読み取り、仕訳を下書きする
ChatGPT のプロジェクト(決まった資料と指示を置いておける場所)を経理用に 1 つ作り、過去 1 年分の仕訳帳を freee 会計から書き出して登録しました。指示には、次のことを書いています。
- 請求書から日付・取引先・金額・税率を読み取る
- 勘定科目は、過去の仕訳帳で同じ取引先に使った科目を優先する
- 取引先名が仕訳帳の表記と一致しないとき、読み取りに自信がないときは、その行の「確認」欄に印と理由を書く
- 結果は決めた列の順で表にして返す
担当者は、未処理のフォルダにたまった請求書をまとめてこのプロジェクトに渡し、返ってきた表を保存します。
STEP 3 プログラムが合計を確かめ、freee の取り込み形式にする
ChatGPT の表は、そのままでは freee 会計に入りません。そこで、表を freee 会計のインポート機能で取り込める CSV に並べ替えるプログラムを用意しました。
このプログラムは、並べ替えのついでに 2 つのことを機械的に確かめます。1 つは、行ごとの金額の合計が請求書の合計額と合うか。もう 1 つは、取引先名が freee 会計に登録済みの取引先と一致するか。合わない行には、AI の印とは別に印を付けます。
STEP 4 担当者が印の付いた行を見て、登録する
担当者は CSV を開き、印の付いた行から順に、元の請求書と見比べて直します。印のない行はざっと目を通すだけです。直し終えたら freee 会計に取り込んで登録し、元の書類を処理済みのフォルダに移します。
仕組みの全体像
- 請求書が経理用のアドレスに届き、プログラムがフォルダに保存する(紙はスマホで撮って入れる)
- 担当者が未処理の書類を ChatGPT のプロジェクトに渡す
- ChatGPT が読み取り、過去の仕訳帳を手本に仕訳を下書きする(自信のない行には印)
- プログラムが合計と取引先名を確かめ、freee 会計に取り込める CSV にする
- 担当者が印の付いた行を中心に確かめ、freee 会計に登録する
人が残した仕事
登録の最終判断は担当者が持っています。初めての取引先、金額がいつもと大きく違う請求、按分が必要な経費は、AI の下書きを参考にしつつ人が決めます。支払いの承認や、仕入先への問い合わせも今までどおり経理の仕事です。
情報の扱いで気をつけたこと
請求書には取引先の口座番号や担当者名が載っています。そこで、AI に渡す情報の範囲と、使う環境を先に決めてから始めました。
- ChatGPT は Team プランを使う。Team プランの入力内容は、既定で学習に使われない
- 読み取らせるのは請求書と領収書だけ。給与や個人の口座に関わる書類は対象から外した
- 保存先のフォルダと ChatGPT のプロジェクトは、経理の担当者と管理者だけが開ける権限にした
変わったこと
月末の入力作業は 24 時間から 6 時間に減り、締めまでの日数は 5 日から 2 日になりました。入力ミスの修正も、月 12 件から 2 件に減っています。
金額の合計チェックをプログラムに任せたことで、桁の打ち間違いはほぼ出なくなりました。
取引先名の照合も機械が先にやるので、似た名前の取り違えは登録前に止まります。試算表が早く出るぶん、月初の会議で前月の数字を見ながら話せるようになりました。
同じことを始めるなら
6 週間ほどかかります。最初に、過去 1 年分の仕訳データと、よく届く請求書を 20 枚ほど用意していただきます。会計ソフトが freee 会計以外でも、取り込み形式に合わせて組み立てられます。
1 週目は、請求書がどこからどう届いているかを一緒に洗い出し、入口を 1 つのフォルダにするところまで進めます。AI に読ませるのは 2 週目からです。