対象の仕事

店舗ごとの月次の売上と経費を、全社の表 1 枚にまとめる仕事です。

各店の店長が月末に、売上と、仕入・人件費・水道光熱費などの経費を、店舗ごとの Google スプレッドシートに入力します。集計の担当者はその表を 1 つずつ開き、数字をコピーして全社の表に貼り付け、店舗別と全社合計の表を作っていました。できた表は月初の会議で使うため、会議の前日までに仕上げる決まりでした。

困っていたこと

店舗の表は形がそろっていませんでした。列の並びが店によって違ったり、店長が独自に行を足していたりするため、毎月コピーと貼り付けを繰り返し、合わない数字は店に電話して確かめていました。これで丸 1 日、6 時間ほどかかります。

しかも、この手順を知っているのは担当者 1 人だけでした。担当者の休みと月初が重なると、会議の資料がそろわないまま始まることもありました。

やったこと

STEP 1 店舗の入力表を 1 つの型にそろえる

最初にやったのは、AI ではなく表の整理です。全店で同じ型の入力表を使ってもらうことにし、行と列の並びを固定しました。

店長が書き込めるのは数字の欄だけです。それ以外のセルはスプレッドシートの「保護」で編集できなくし、数字の欄には「データの入力規則」で数字しか入らないようにしました。行を足したくなったときのために、「その他(内容をメモ欄に)」という行を 1 つだけ用意しています。店長の手間はほとんど変わりません。

STEP 2 ボタンひとつで全店の数字を集める

Google Apps Script(スプレッドシートを自動で動かすための、Google の仕組み)で集計のプログラムを書き、全社の表にボタンを置きました。押すと、プログラムが各店の表を順に開き、決まった欄の数字を読み込んで、店舗別の表と全社合計の表に書き出します。

集計は計算どおりに動くプログラムの仕事で、ここに AI は入れていません。数字の足し算を AI にさせると、まれに間違えるからです。入力が終わっていない店があれば、プログラムはその店の名前を表の上に赤字で出します。

STEP 3 大きく動いた数字だけを AI に渡す

集計が終わると、プログラムが各項目を前月・前年同月と比べ、大きく動いた項目だけを拾います。どれだけ動いたら拾うかの基準は、担当者と相談して決めました。

拾った項目は、項目名と金額、比べた月の金額だけを ChatGPT に送ります。送るのは Apps Script から OpenAI の API(ChatGPT と同じ AI をプログラムから使う窓口)を呼ぶ形です。AI は「B 店の仕入が前月より 2 割多い。売上は横ばいなので、請求の計上月がずれていないか確認」といった短いメモを書き、プログラムがそれを表の横の「確認メモ」欄に書き込みます。原因を決めつけず、確かめる点として書かせています。

STEP 4 担当者がメモを見て、店長に確かめる

担当者は確認メモの付いた行だけを見ます。説明がつくものはそのまま残し、わからないものは店長に問い合わせて、答えをメモ欄に書き足します。全部済んだら、会議用の表を共有します。

仕組みの全体像

  1. 各店の店長が、同じ型の表に売上と経費を入れる
  2. 担当者が全社の表のボタンを押す
  3. プログラムが全店の表を読み込み、店舗別と全社合計の表に書き出す
  4. プログラムが大きく動いた項目を拾い、AI がそれぞれに確かめる点をメモする
  5. 担当者がメモを見て、必要なら店長に確認する

人が残した仕事

数字が正しいかどうかの判断は、今も担当者と店長がしています。AI のメモはあくまで「ここを見てください」という目印です。会議でどの店に何を話すかも、人が決めています。

情報の扱いで気をつけたこと

売上や人件費は、社外に出したくない数字です。AI に渡す範囲を絞ることで、その心配を小さくしました。

  • AI に渡すのは、大きく動いた項目の名前と金額だけ。従業員ごとの給与や氏名は渡さない
  • OpenAI の API に送った内容は、既定で AI の学習に使われない。API の鍵は Apps Script の「スクリプト プロパティ」に置き、表の上には書かない
  • 全社の表とプログラムは、集計の担当者と管理者だけが編集できる権限にした

変わったこと

毎月の集計は 6 時間から 15 分になりました。ボタンを押して、AI のメモに目を通すまでの時間です。

計算はプログラムに、気づきは AI に。役割を分けたので、集計結果の数字そのものは毎回同じように出ます。

手順がボタンひとつになったことで、担当者が休みの月も、店長の 1 人が代わりに集計できるようになりました。会議の資料も前日に余裕を持ってそろいます。

同じことを始めるなら

3 週間ほどで形になります。準備していただきたいのは、いま使っている集計用の表と、まとめ上がった表の完成形を 2⁠〜⁠3 か月分です。Excel のままでも、Google スプレッドシートに移しても進められます。

最初の 1 週間は、各拠点の表を並べて違いを洗い出し、共通の型を決めます。ここが固まれば、ボタンづくりそのものは数日で終わります。