来客数を AI で予測する仕組みは、大きな会社だけのものではありません。三重県伊勢市の老舗食堂と、東京都足立区の小さな飲食店が、すでに日々の仕込みと仕入れに使っています。

2 つの事例が教えてくれることは同じです。予測が役に立つのは、毎日「今日は何人来るか」を見込んでから仕込む店。

そして予測を当てるには、まずレジのデータを貯めるしかありません。

事例 1:勘と経験で決めていた仕入れを、予測で決めるようにした(有限会社ゑびや)

課題:食券とそろばん、肌感覚の仕入れ

ゑびやは、伊勢神宮のおはらい町で 150 年にわたって商売を続けてきた会社で、今は大食堂、商店、屋台、商人館の 4 つの業態を営んでいます。

公式サイトによれば、およそ 10 年前までは次のような状態でした。

  • 売上の管理は、手で切る食券とそろばん
  • 仕入れは肌感覚
  • シフトは特定の人に頼った作り方

経営が苦しくなったことをきっかけに、データにもとづく経営へ切り替えています(出典:EBILAB「EBILABとは」公式サイト、2026 年 10 月 3 日閲覧)。

何をしたか:来客予測を朝礼で全員が見る

道具は自前です。ゑびやが使っているのは、自社のシステム開発部門が作った店舗分析ツール「TOUCH POINT BI」です。この部門はのちに株式会社 EBILAB として独立し、同じ仕組みを他の店に提供しています。

予測に使うのは、レジの売上データと、おはらい町の人通り、イベント、天気といった外の情報です。これらをもとに、翌日・1 週間後・45 日後の来客数を予測します(出典:EBILAB「EBILABとは」公式サイト、2026 年 10 月 3 日閲覧)。

目を引くのは、予測を経営者だけの数字にしていない点です。社員もアルバイトも、バックヤードのモニターで予測を見ながら働きます。朝礼も、まずデータから。

EBILAB の来客予測のページでは、予測客数があれば店長がいない日でもスタッフが発注量や仕込みの量を決められる、と説明しています(出典:EBILAB「来客予測」公式サイト、2026 年 10 月 3 日閲覧)。

結果:食材ロスが 7 年で 72.8% 減った

EBILAB の公式サイトは、ゑびやでの 7 年間の結果として、売上高が約 5 倍、客単価が約 3 倍、食材ロスが 72.8% 減ったと示しています(出典:EBILAB「EBILABとは」公式サイト、2026 年 10 月 3 日閲覧)。

ただし注意がいります。売上や客単価の伸びは、来客予測だけで生まれたものではありません。

公式サイトでも、仕入れ、シフト、集客、商品開発をデータで見直した結果として書かれています。来客予測と直接つながるのは、食材ロスのほうです。

レジの売上、人通り、天気、イベントの情報から来客数を予測し、スタッフが仕込みと発注の量を決める。ゑびやでは食材ロスが 72.8% 減った流れの図。
来客予測で仕込みを決め、食材ロスを減らした

事例 2:区内の飲食店 5 店で、AI の来客予測を 1 年半試した(東京都足立区)

課題:区内の店から出る食品ロスを減らしたい

足立区は、区内の事業所から出る食品ロスを減らすため、飲食店に AI の予測システムを入れて効果を確かめる実証事業を行いました。委託先は EBILAB です。

参加したのはベーカリー、食堂、中華料理店、和食料理店、フランス料理店の 5 店で、フランス料理店は途中で閉店しています。効果を測った期間は 2023 年 10 月 10 日から 2025 年 3 月 15 日までです(出典:足立区「AIシステムを利用した食品ロス削減実証事業の実証結果を報告いたします」2025 年 3 月 28 日)。

何をしたか:POS レジを貸し出し、予測を仕込みに使う

区は参加店に POS レジ(売れた商品と時刻を自動で記録するレジ)を貸し出し、そのデータを予測システムにつなぎました。店は次の数字を画面で確かめ、仕入れや仕込みの量を決めます。

  • 当日と 5 日先までの来客数
  • 5 日先までのメニューごとの販売数
  • 最大 45 日先までの来客数と売上

レジとシステムが自動でつながっているため、店がデータを入力し直す手間はありません(出典:株式会社 EBILAB「AI システムを利用した食品ロス削減実証事業 事業報告書」足立区公開、2025 年 3 月 28 日)。

結果:当たる店と当たりにくい店がはっきり分かれた

報告書の読みどころは、どんな店なら予測が当たるかです。

まず時間です。開始から 6 か月たった 2024 年 4 月に、全店の平均的中率が 83.4% に達しました。レジのデータが半年分貯まったところで、ようやく予測が安定し始めたことになります。

来客数が 1 日およそ 90 人以上の店は予測が安定しやすく、日による変動が大きい店は安定しにくい傾向でした。

店

様子

ベーカリー(1 日の平均来客数 約 900 人)

93.8% の的中率を保った

食堂

キャンペーンで客が急に増えて日ごとの変動が激しくなると、的中率が下がり始めた

(出典:同報告書)

削減幅は店ごとに違います。期間を通して比べられたベーカリーでは、2025 年 3 月のロスが 2023 年 11 月より 4.4% 減りました。小さな数字です。

ただ、このベーカリーはもともとロスを製造数の 5% 以内に抑えていた店でした。報告書は、同業の店では 5⁠〜⁠15% 程度が多いとしています(出典:同報告書)。

予測が当たってもロスが減らない場合があることも、報告書は隠していません。

  • 注文を受けてから作る店では、そもそも大きなロスが出ません
  • 仕入れや製造の量をすぐ変えられない店では、予測が当たっても無駄は減りません
来客予測が効くのは、前日や朝に「今日はいくつ作るか」を決める店です。ベーカリー、惣菜店、弁当店のように作り置きをする業態が、いちばん効果を得やすいとされています。

自社の店で試すなら、レジのデータを貯めるところから

順番は、データが先です。ゑびやは売上管理を食券とそろばんからデジタルに切り替えるところから始め、足立区の実証でも、まず POS レジを入れて販売データを貯めました。

自社で始めるときの手順は次のとおりです。

  1. 今のレジで、日ごと・時間帯ごと・商品ごとの売上が記録できているかを確かめる。できていなければ、記録できるレジへの切り替えを先に考える
  2. 毎日の廃棄量を記録し始める。重さでも個数でもよいので、同じ方法で続ける
  3. イベント、臨時休業、営業時間の変更をメモしておく。足立区の実証でも、こうした情報を予測に反映させる手間をかけています
  4. 半年ほどデータが貯まったら、来客予測サービスの導入を検討する
  5. 予測を見て仕込み量を決める担当者と、決め方を決めておく

向かない店もあります。1 日の来客数が少ない店や、注文を受けてから作る店では、予測の効果が出にくいと報告書は書いています。

その場合は、来客予測より、売れ筋と廃棄の記録を見比べて仕入れを見直すほうが近道です。

出典

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