配車や伝票の入力は、毎日同じ形でくり返される仕事です。愛知県春日井市の前田鐵鋼株式会社は、配送ルートを AI に計算させるサービスを入れ、配車係 1 人とドライバー 6 人で、月約 280 時間の労働時間を減らしました(出典:@Press「配送ルート最適化サービスLoogia(ルージア)導入で配車計画業務の残業を大幅に削減成功」2022 年 5 月 27 日)。

もう 1 つは、規模がまったく違う佐川急便の事例です。手書きの配送伝票の内容を人が打ち込んでいた作業を AI に置き換え、作業時間を月約 8,400 時間短くしました。2 つの事例を並べると、会社の大きさに関係なく、運ぶ仕事のどこから AI を入れるとよいかが見えてきます。

事例 1:配車計画を AI に計算させた(前田鐵鋼)

会社の課題:配車係の残業が続き、納品の時間も守りきれなかった

前田鐵鋼は、鋼材の加工と販売をしている会社です。導入した部門の体制は、配車係 1 人とドライバー 6 人でした(出典:同リリース)。

導入前の課題として、次の 3 つが挙げられています(出典:同リリース)。

  • 納品の時間を過ぎてしまうことがあった
  • 配車係の時間外労働が多かった
  • 配車計画を作るのに時間がかかっていた

配車計画は、1 人の配車係に頼り切りになりやすい仕事です。その人が毎日遅くまで残っていたことが、この会社の出発点でした。

何をしたか:配送ルートを計算するサービスを入れた

2022 年から、株式会社オプティマインドの配送ルート最適化サービス「Loogia(ルージア)」を使っています(出典:同リリース)。

Loogia には、出発地と帰着地、車両の情報、配送先の名前と住所、配送先ごとの作業時間を入れます。そのうえで、どの順番で回るとよいか、各地点の間をどう走るとよいかを計算します(出典:Loogia 公式サイト)。

結果:配車も配送も 1 日 2 時間短くなった

リリースと事例ページに載っている結果は次のとおりです(出典:同リリース、Loogia「前田鐵鋼株式会社」導入事例)。

項目

結果

配車計画を作る時間

1 日あたり 2 時間短縮

ドライバーの配送時間

1 人あたり 2 時間短縮

会社全体の労働時間

月約 280 時間短縮(配車係とドライバー 6 人の合計)

納品

取引先の定時内に納品できるようになった

経費

ガソリン代などが減った

配車係は「入社後にはじめて勤務後の自分時間を持てるようになった」と書かれています。同社の土屋義徳 製販統括本部長は、導入後 3 か月で配車計画の時間を大幅に減らせたとコメントしています(出典:同リリース、同事例ページ)。

事例 2:手書き伝票の入力を AI に置き換えた(佐川急便)

何をしたか:手書きの数字を AI に読ませ、システムまでつないだ

佐川急便は、年間約 13 億個の荷物を扱っています。繁忙期には、1 日に 100 万枚もの配送伝票の情報を、人の手でシステムに入力していました(出典:PR TIMES「佐川急便の配送伝票入力業務を自動化するAIシステムが本稼働」2019 年 8 月 2 日)。

そこで、SG システム、フューチャーアーキテクトと 2018 年 12 月に開発を始め、2019 年 7 月に本格的に使い始めました。伝票の読み取りから、既存のシステムへのデータの受け渡しまでを自動にしたのが特徴です(出典:同リリース)。

結果:月約 8,400 時間の短縮

作業時間は月約 8,400 時間短くなりました。手書きの数字(サイズや重量)を読み取る精度は 99.995% 以上で、丸で囲まれた数字や、取り消し線で直された数字も読み取れるとしています(出典:同リリース)。

複写式の伝票の擦れや傷があっても読み取れる、と報道されています(出典:Impress Watch「佐川急便、配送伝票入力自動化システムを本格稼働。手書き数字など読み取り」2019 年 8 月 5 日)。

前田鐵鋼は配車計画を AI に計算させて月約 280 時間、佐川急便は伝票の入力を AI に置き換えて月約 8,400 時間を短くした。
毎日同じ形でくり返す仕事を AI に任せた 2 社
2 社とも、AI に任せたのは毎日同じ形でくり返す仕事です。配車は「条件から順番を決める」、伝票は「紙の文字をデータにする」。判断の幅が小さい仕事ほど、AI の効果がはっきり出ています。

課題:数字の読み方と、事前に用意するもの

数字は提供会社の発表であることに注意する

前田鐵鋼の数字は、サービスを提供するオプティマインドの発表と事例ページに載ったものです。導入前に配車計画に何時間かかっていたかは書かれていません。

「何時間から何時間になったか」まではわからないので、自社と比べるときは「1 日 2 時間減った」という差の大きさで見ます。

佐川急便の事例は 2019 年のものです。また、1 日 100 万枚という量があってこそ、専用のシステムを開発する価値がありました。小さな会社が同じものを作る必要はありません。

AI に渡すデータは、会社側でそろえる

Loogia を使うには、配送先の住所や作業時間、車両の情報を登録する必要があります(出典:Loogia 公式サイト)。配送先ごとの「荷下ろしに何分かかるか」がベテランの頭の中にしかない会社では、まずそれを書き出すところから始まります。

中小企業が真似できること

2 つの事例から真似できるのは、次の 3 点です。

  • 毎日くり返す、形の決まった仕事から選ぶ。配車表づくりと伝票の入力は、どちらも毎日同じ手順で、判断の幅が小さい仕事です
  • 時間を減らしたい人をはっきりさせる。前田鐵鋼では「残業が続く配車係」、佐川急便では「伝票を打ち込む人」でした。誰の何時間を減らすかが決まっていると、効果を測れます
  • AI に渡すデータを先に整える。配送先の住所、作業時間、伝票の書式がそろっていないと、AI は正しく計算も読み取りもできません

社員 20⁠〜⁠50 人の会社なら、こう始める

専用のシステムを作る前に、今ある仕事のうち 1 つを選んで、2 週間で試します。

  1. 配車と伝票のどちらが重いかを測る。配車係の 1 日の作業時間と、伝票や日報の入力にかかる時間を、2 週間記録します
  2. 配車が重いなら、配送先の一覧を作る。住所、受け取れる時間帯、荷下ろしにかかる時間を表にまとめます。これはルートを計算するサービスを入れるときにも、そのまま使えます
  3. 伝票や日報の入力が重いなら、写真から表にさせてみる。業務向けの AI サービスに伝票の写真を読ませ、「日付⁠/届け先⁠/個数⁠/重量」の欄で書き出させます。読めない箇所は推測で埋めず「不明」と書かせ、人が元の伝票と見比べます
  4. 2 週間後に、減った時間と直した件数を見る。直す件数が多いなら、欄の決め方か指示文を見直します

3 番目の伝票の読み取りでは、届け先の名前や住所といった個人情報を扱います。使う AI サービスが、入力した内容を学習に使わない契約・設定になっているかを、試す前に確かめてください。

出典

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