製造業の中小企業で、生成 AI の使い方が「文章を書かせる」の先に進んだ例が出てきています。この記事では 2 社を取り上げます。

1 社目は、石川県金沢市の岡田研磨株式会社です。エンジニアのいない会社で、専務が生成 AI と対話しながら社内の管理アプリを 30 種類以上自作し、月 530 時間ほどの労働時間を減らしました。

2 社目は、トヨタ自動車の一次仕入れ先である旭鉄工株式会社です。工場の稼働データを AI に分析させ、毎朝のレポートとして現場の課長・係長に届けています。

2 社の共通点は、AI に渡す材料、つまり自社のデータや改善のノウハウを先に整えていたことです。

事例 1:紙と Excel の管理を、生成 AI で作ったアプリに置き換えた(岡田研磨株式会社)

課題:資料を探すのに 1⁠〜⁠2 時間かかる

岡田研磨は、建設機械や産業機械に使う部品の加工と組み立てを手がける、社員 85 人の会社です(出典:中小企業庁「2026年版 中小企業白書 第2部第2章第2節 事例2⁠-⁠2⁠-⁠14 岡田研磨株式会社」2026 年 4 月 24 日公表)。

岡田雄太専務が入社した 2020 年当時、図面をはじめとする大量の情報は紙と Excel で管理されていました。情報は特定の人にしかわからない状態で、次のような無駄が積み重なっていたそうです(出典:同白書)。

  • 工場の担当者が作った資料を、事務担当が別の資料へ書き写して集計する
  • 資料を探すのに 1⁠〜⁠2 時間かかる

何をしたか:AI と 1,000 時間以上対話して、管理システムを自作した

転機は 2023 年の終わりです。生成 AI がプログラムを書くのを見た専務は、エンジニアでない自分でもアプリを作れると考えました。費用とデータの使いやすさを考えて、外注ではなく自作を選んでいます(出典:同白書)。

まず AI との対話でウェブアプリの仕組みを学ぶところから始め、約 2 年で合計 1,000 時間以上 AI と対話を重ねました。

そうして完成した社内の統合管理システム「OKADA Board」には 30 種類以上のアプリが入っています。検査の実績、品質の報告、在庫、生産の進み具合といった生産管理から、労務管理、原価管理まで、データを一か所にまとめました(出典:同白書)。

広げ方にも工夫があります。社内には反発もありましたが、専務はこれが単なる効率化ではなく会社の戦略だと説明して理解を得ました。

各部門の若手で DX 推進チームを作り、まずチームが使ってから全社に広げています。現場の意見はチームが集め、専務が一つずつ直していく。自作だから、要望をすぐ反映できます(出典:同白書)。

結果:月 530 時間の削減と、手順書の急増

白書によると、OKADA Board で毎月 5,000⁠〜⁠6,000 枚分の紙がなくなり、紙の資料を管理する手間も減って、労働時間は月 530 時間ほど減りました。空いた人手で受注を増やせるようになり、売上高も伸びています(出典:同白書)。

もう一つの成果が、AI を使った手順書の管理システム「Knowledge Board」です。

社員が自由に手順書を作れるようにしたところ、それまで 150 件ほどだった手順書が、導入からわずか 4 か月で 240 件ほど増えました。手順書を使った教育で、一人が複数の工程をこなせるようになっています(出典:同白書)。

費用の面では、同じシステムを外注すれば約 8,000 万円かかるところ、内製なら AI の月額利用料だけで済んでいる、と白書は書いています(出典:同白書)。

事例 2:工場のデータを AI が読み、毎朝の改善の手がかりを出す(旭鉄工株式会社)

課題:データは集まっても、現場が動かなければ意味がない

旭鉄工は、トヨタ自動車の一次仕入れ先として自動車部品を作る会社です。木村哲也社長はトヨタ自動車での勤務を経て 2013 年に経営者として移り、自社で作った IoT システム(機械にセンサーをつけて稼働の状況を自動で集める仕組み)と改善のノウハウで、会社の変革を進めてきました(出典:TECH+「AIに必要なのは『データ×ノウハウ×哲学』 - 旭鉄工のAIファースト経営」2026 年 9 月 25 日)。

データを集めて AI に与えるだけでは何も起きない、と木村社長は言い切ります。残業を減らす、原価を管理するといった目的を先に決め、そこから必要なデータを逆算してきました(出典:同記事)。

何をしたか:分析は AI、判断と実行は人

旭鉄工では、IoT で集めた稼働データを AI が分析し、毎朝レポートを作ります。人が作れば 3 時間ほどかかるレポートです。

課長や係長はそれを読み、次に何をするかを決めます(出典:同記事)。

AI は役割ごとに分けて使っています。

  • 「AI 製造部長」:稼働データを見て、たとえば夕方に 1 個あたりの作業時間が延びていれば、作業者が疲れていないか、やりにくい作業がないかの確認を促す
  • 「AI 品質ポリス」:品質や稼働の変化から、過去のトラブルが再発していないかの確認を促す
  • 「AI ちゃんしほ」:作業の動画を解析し、作業者ごとの動きの違いや作業手順書とのずれを見つける。以前は人が動画をコマ送りで見ていた作業

AI に現場で起きたことの分析だけでなく、次に何を確認しどう動くかまで提案させているのが特徴です。

そのために、2015⁠〜⁠2016 年ごろから現場の改善策をまとめてきた「横展アイテムリスト」を AI に取り込んでいます(出典:同記事)。

結果:AI の投稿だけでは人は動かなかった

この事例でいちばん学べるのは、うまくいかなかった点かもしれません。AI の分析は Slack(社内チャット)に直接投稿できます。ところが木村社長は、投稿しただけでは人は動かないと話しています。

課長や係長が AI の報告を読み、「ここを調べて今日中に答えてほしい」と具体的に指示して、はじめて現場の行動につながるそうです(出典:同記事)。

稼働データを AI が分析して毎朝レポートを作り、課長・係長が読んで具体的な指示に変えて、はじめて現場が動く流れの図。
分析は AI、判断と指示は課長・係長

木村社長は AI の答えを「60 点か 70 点」と表現しています。足りない 30⁠〜⁠40 点を埋め、AI に与えるノウハウを更新していくのが上司の役目だという考え方です(出典:同記事)。

なお、旭鉄工は DX 全体の成果として、労働生産性 41% の向上、電力使用量約 4 割減、従業員 1 人あたりの賃金 2 割ほどの増加を挙げています(出典:同記事)。

これは IoT とトヨタ生産方式の改善を長年積み重ねた結果で、AI だけの効果ではありません。

岡田研磨は「紙と Excel」を、旭鉄工は「改善ノウハウのリスト」を、AI より先に整えていました。AI の出来は、渡す材料で決まります。

自社の工場で試すなら、こう始める

2 社の規模や取り組みの深さは違いますが、最初の一歩は小さくできます。

  1. 紙や Excel で、二重に書き写している作業を 1 つ探す。岡田研磨の出発点も、転記と資料探しの無駄でした
  2. その作業を置き換える小さなアプリを、生成 AI に相談しながら作ってみる。最初はスプレッドシートの入力フォームと集計の組み合わせ程度で十分
  3. 現場の改善ノウハウを文章で残し始める。「この症状のときは、ここを確かめる」という形で 10 件書けば、AI に渡せる材料になる
  4. AI の分析は、必ず人が読んで指示に変える流れにする。旭鉄工のように、報告を流すだけでは現場は動かない
  5. 若手を中心に小さなチームをつくり、そこで試してから全社に広げる
AI でアプリを作るときは、社内のデータを外部のサービスにどこまで入れてよいかを先に決めておいてください。図面や取引先の情報は、契約上外に出せないものも多いはずです。

出典

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