パナソニック コネクト株式会社は、2023 年 2 月から国内の全社員約 12,400 人に、ChatGPT をもとにした社内向けの AI アシスタント「ConnectAI」を配っています。

1 年後に公表した結果では、社員の申告をもとに、労働時間を 1 年で 18.6 万時間減らしたとしています(出典:パナソニック ニュースルーム「パナソニック コネクト 生成AI導入1年の実績と今後の活用構想」2024 年 6 月 25 日)。

規模は大きな会社の話です。それでも、この事例から中小企業が持ち帰れることは多くあります。

  • 社員が勝手に外部の AI を使う危険をどう減らしたか
  • 使い方をどう育てたか
  • 社内の資料を AI にどう読ませたか

どれも、規模を問わず同じ悩みだからです。

会社の課題:社員が勝手に AI を使い始める前に、安全な道具を配りたい

パナソニック コネクトは、AI アシスタントを配る目的を 3 つ挙げています(出典:同リリース)。

  1. 生成 AI で業務の生産性を上げること
  2. 社員の AI を使う力を伸ばすこと
  3. 「シャドー AI」の危険を減らすこと

シャドー AI とは、会社が把握していないところで、社員が個人のアカウントで外部の AI サービスを使うことを指します。便利だからこそ、禁止しても使われます。

入力した社内の情報がどう扱われるかを、会社が管理できなくなるのが問題です。会社として安全な道具を先に配れば、社員はそちらを使います。

何をしたか:配るだけでなく、使い方と社内資料まで手当てした

使い方の例を、最初の画面に置いた

ConnectAI の画面は、社員が的確な指示を入れやすいように作り込まれています。よくある日常業務 15 件分のプロンプト(AI への指示文)の例を、最初の画面に並べました。

さらに 2024 年 6 月 17 日からは、社員が書いた指示文を添削する機能も加えています(出典:同リリース)。

白紙の入力欄を前にすると、多くの人は何を書けばよいかわからず、短い質問を打って終わります。例が最初から見えていれば、そこを書き換えるだけで使い始められます。

社内の資料をもとに答える AI を試した

次に取り組んだのが、自社の情報をもとに答える AI です。

  • 2023 年 9 月に、自社のウェブサイトやニュースリリースといった公開情報をもとに答える AI を全社員で試験運用し、一定の精度で答えられることを確かめました
  • 2024 年 4 月からは、社外秘の品質管理の資料 630 件、11,743 ページをもとに答える AI の利用を始めています

答えには引用元が表示され、社員が自分で正しさを確かめられるようにしています(出典:同リリース)。

品質管理を選んだ理由もリリースに書かれています。経験者のノウハウに頼っていて情報が共有されにくく、過去の事例を探して判断するのに時間がかかる。製造業によくある悩みです。

この AI への社員の評価は、5 点満点で 3.5 点でした(出典:同リリース)。

引用元を表示させる設計は、小さな会社でも真似したい点です。AI の答えを読んだ人が、元の資料のどこに書いてあるかをすぐ開けるなら、確かめる手間は数十秒で済みます。

引用元がなければ、正しいかどうかを確かめるために、結局は資料を一から探すことになります。

結果:使い方が「検索の代わり」から「企画の相棒」へ

1 年間のアクセス回数は 1,396,639 回で、直近 3 か月の利用回数は前の年の同じ期間より 41% 増えました。

社員に 1 回あたりどれだけ時間が減ったかを答えてもらったところ、平均で約 20 分という結果でした。18.6 万時間という数字は、こうした社員の申告をもとにしています(出典:同リリース)。

使われ方も変わりました。最初は検索エンジンの代わりのような単純な質問が中心でしたが、戦略づくりや商品企画のように、1 回で 1 時間以上の時間短縮につながる使い方が増えています。素材や製造工程についての質問といった、製造業らしい使い方も増えました(出典:同リリース)。

シャドー AI の危険を減らすという目的についても、16 か月の間に情報漏えいや著作権侵害などの問題は起きていないと報告しています(出典:同リリース)。

一方で、課題も書かれています。一般的な AI は、自社に固有の質問や最新の公開情報には答えられず、答えの正確さも保証できません。

社内の資料をもとに答える AI に進んだのは、この課題を解くためでした(出典:同リリース)。

リリースは今後の計画として、社内の資料をもとに答える AI を、品質管理から人事の研修サポート、社内の IT サポート、カスタマーセンターへ広げるとしています。

人事では、社員に合った研修を AI が提案する仕組みの導入を進めているそうです(出典:同リリース)。社員からの問い合わせに答える仕事は、どの会社にもあります。

そこに AI を当てるという方向は、小さな会社でも変わりません。

パナソニック コネクトが踏んだ 3 つの段階。全社員に AI を配り、使い方の例を見せ、社内の資料を読ませて答えさせる、という順番を階段で示した図。
配る、例を見せる、社内資料を読ませるの順
「全員に配る」「使い方の例を見せる」「社内の資料を読ませる」。パナソニック コネクトは、この順で段階を踏んでいます。小さな会社も、同じ順番で進めれば無理がありません。

社員 20⁠〜⁠50 人の会社なら、こう応用する

  1. 個人で使い始める前に、会社のアカウントを配る。シャドー AI を防ぐいちばんの方法は、安全な道具を先に渡すことです。契約するサービスが、入力内容を学習に使わない設定になっているかを確かめ、入れてはいけない情報を 1 枚にまとめて一緒に配ります
  2. よく使う指示文の例を 10 個ほど、共有の文書にまとめる。専用の画面を作れなくても、「メールの下書き」「会議メモの整理」「長い資料の要約」など、社内でよくある仕事の指示文を 1 つの文書に並べ、全員がすぐ開ける場所に置けば同じ効果が狙えます
  3. 3 か月たったら、何に使われているかを聞く。検索の代わりに使われているだけなら、下書きや企画の壁打ちといった、時間の減り方が大きい使い方の例を追加で見せます
  4. 社内の規程や過去の資料をもとに答えさせることを試す。就業規則や製品の Q&A など、社員がよく問い合わせる資料を AI に渡し、その資料に書かれた範囲で答えさせます。答えには根拠となる箇所を示させ、人が確かめられるようにします

2 番目の指示文集は、たとえば次のような表で始められます。

仕事

指示文の例

使うときの注意

取引先へのメール

「次の状況で、取引先への返信の下書きを 5⁠〜⁠8 行で作ってください。状況:(ここに書く)」

金額・納期は元の資料と見比べる

会議メモの整理

「次のメモを、決まったこと/誰がいつまでに何をするか/持ち越したこと、に分けて整理してください。メモにないことは足さないでください」

担当者名や期限が正しいか確かめる

長い資料の要約

「次の資料を、社長が 1 分で読める長さに要約してください。数字は資料に書かれたものだけを使ってください」

数字を元の資料で確かめる

最初から 15 件そろえる必要はありません。3 件から始めて、社員が「これは使えた」と言った指示文を足していけば、自然と会社の型が育ちます。

4 番目は、社外秘の資料を外部のサービスに入れることになります。どの資料なら入れてよいか、会社として先に判断してから進めてください。

出典

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